プロダクト開発

飲食店のアプリを自社開発すべきかは、店舗数と課金の仕組みで決まる

月額のサービスで公式アプリを運用してきたが、店舗が増えてきて、そろそろ自分たちのものを持つべきではないか。この記事は、飲食チェーンの本部でその判断を任されている方に向けて書いています。

結論を先に書きます。飲食店のアプリを自社開発すべきかどうかは、機能の多さでも開発会社の技術力でもなく、店舗数と「課金が店舗ごとに発生しているか」で決まります。

先に答え。切り替えの境目は2つしかない

見るべきものは2つだけです。

  1. 店舗を増やしていく見込みがあるか

    いまの店舗数ではなく、これから増えるかどうかで考えます。3年後も同じ数なら、切り替える理由は費用からは出てきません。

  2. いまの契約が、店舗ごとに課金されているか

    店舗が増えるたびに請求が増える形なのか、1本いくらで固定なのか。ここを確認していない会社が多くあります。

この2つが両方そろったときだけ、自社開発が費用の面で有利になります。 片方でも欠けていれば、いまのサービスを使い続けるほうが合理的です。

月額のサービスで足りている状態と、足りなくなる状態

店舗向けの月額サービスの相場は月額5,000〜20,000円程度で、初期費用は3万円ほどから。ポイント、クーポン、通知といった基本の機能は最初から入っています。この価格で出せるなら、まずはここから始めるのが正しい順番です。

足りなくなるのは、次のような場面に当たったときです。

  • お客様に配りたい特典が、用意された選択肢の中に無い
  • 会計のデータと利用履歴が別々の場所にあり、突き合わせに手作業が要る
  • 店舗を増やすたびに、毎月の請求額が上がっていく
  • 席の案内や店内で流す音楽まで含めて体験を整えたいが、管理画面から触れない

このうち上の3つは、機能の不足ではなく契約の形から来ています。 機能を足しても解けません。

規模ごとの目安としては、月額2〜4万円が1〜5店舗、既製品を載せ替える形で50〜300万円が10〜30店舗、ゼロから作る場合は300万円〜1,000万円超で50店舗超という整理が紹介されています。店舗向けの公式アプリをゼロから作る費用を1,000万円程度とする見方もあります。

「5年で逆転する」は、条件がそろったときだけ起きる

よく引かれる試算があります。50店舗で5年運用すると、月額3万円のサービスは総額9,000万円になるのに対し、初期600万円で作り切れば総額1,800万円で済むというものです。

数字だけ見れば、自社で持つほうが圧倒的に有利に見えます。ただしこの試算には前提があります。月額が店舗ごとに課金されていることです。

契約には大きく2つの形があります。

  • 店舗ごとの課金 … 店舗数 × 月額。店舗が増えるほど支払いが増える
  • 1本いくらの課金 … アプリ1本に対しての月額。店舗が増えても支払いは変わらない

後者なら、店舗が50になっても100になっても支払いは増えません。**この場合、逆転は起きません。**費用を理由に切り替えると、かえって高くつきます。

確かめ方は簡単です。**直近の請求書を開いて、金額が店舗数に比例しているかを見てください。**比例していれば、店舗を増やす計画がそのまま支払いの増加として効いてきます。比例していなければ、切り替える理由は費用以外のところに求める必要があります。

費用より先に決めること。お客様の情報を誰が持つか

費用の比較より先に決めたほうがよいことがあります。来店の履歴、注文の内容、使われたクーポン。これらが誰の手元に残るかです。

用意されたサービスを使う場合、これらは事業者側の仕組みの中に貯まります。日々の運用では困りません。困るのは、乗り換えようとしたときです。どこまで持ち出せるかは契約によって違い、持ち出せても形が変わってしまえば、そのまま使えるとは限りません。

自分たちで持つ形にすると、初期の費用はかかりますが、この情報は自社に残ります。店舗が増えるほど、この差は開いていきます。 5年分の来店履歴は、あとから買い直せません。

これは費用の比較表には出てこない項目です。それでも、先に決めておく価値があります。

3つの型を比べる

どれが優れているという話ではありません。前提が違うだけです。

見る軸月額のサービス既製品を載せ替えるゼロから作る
初期の費用ほぼ不要中くらい高い
店舗が増えたとき契約次第で増える契約次第増えない
お客様の情報事業者側に貯まる事業者側に貯まる自社に残る
作れる範囲用意された機能から選ぶ用意された機能から選ぶ決め方しだい
向く規模1〜5店舗10〜30店舗多店舗

最後の行が曖昧なままです。同じ「ゼロから作る」でも、何を作るかの決め方は分かれます。 ここがこの記事でいちばん伝えたいところです。

ゼロから作るときの違い何を作るかの決め方
一般的な受託本部が出した要件どおりに作る
YOLOの進め方店に立ってから決め、使われないものは作らない

本部で良さそうに見えた機能が、現場では誰も触らないことがあります。要件どおりに作れば、その機能はそのまま出来上がります。作ってから気づくと、もう畳めません。出したあとに使われない状態をどう立て直すかは飲食店のアプリが使われない原因は、通知ではなく店の中にあるにまとめています。

「自社開発は年単位かかる」は本当か

月額サービス側の解説には、自分たちで作ると年単位になると書かれていることがあります。作る範囲を決めずに始めれば、そのとおりになります。 範囲を決めれば、そうはなりません。

株式会社ダンダダン様の事例を挙げます。旧アプリがすでにある状態からの、作り直しでした。体制はPM1名・デザイナー1名・エンジニア3名の5名。期間は半年です。

作ったのは、顧客向けアプリ、店舗ごとの分析ダッシュボード、店内で流す音楽の配信システムの3つ。アプリは予約・クエスト・ポイント・全店舗制覇・通販の5つを柱にしています。クエストは「肉汁焼餃子を1枚注文する」といったお題をクリアすると段位が上がる仕組みで、チェックイン、来店回数、クエストのクリア、SNSでのシェアがポイントとして貯まります。段位に応じて、お会計の値引きや商品の値引きのクーポンが配られます。

累計43万ダウンロードを超えました。詳しくはダンダダン様の事例にまとめています。

なぜこの期間で作れるのか

作る範囲を決められるかどうかは、体制で決まります。

代表の山崎は、別会社で飲食店を複数運営しています。ピークタイムに現場がどれだけ動けないか、スタッフにひと手間増やすことが何を意味するか。資料の上ではなく、店に立つ側の実感として分かります。だから要件を聞く前に店舗を見ますし、実際に使う店長やスタッフに早い段階で触ってもらい、使われないと分かったものは作らずに畳みます。

畳めた分だけ、期間も費用も小さくなります。進め方は飲食店向け開発にまとめています。

「作らない」と言える仕組みが依頼先にあるかどうかはMVP開発の会社選びは、「作らない」と言えるかで決まるに、費用が何で動くかはMVP開発の費用は、なぜ見積もりごとに違うのかに書いています。

まとめ

  1. 飲食店のアプリを自社開発に切り替えるかどうかは、店舗を増やす見込みと、課金が店舗ごとかどうかの2つで決まる
  2. 「5年で逆転する」という試算は、店舗ごとに課金されている場合にだけ成り立つ。まず請求書を確認する
  3. 費用が同じなら、お客様の情報が自社に残るかで選ぶ。5年分の来店履歴は買い直せない

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