プロダクト開発
飲食店アプリの効果測定は、会員と非会員を同じ期間で比べる
公式アプリを出して半年が経ち、ダウンロード数は積み上がっている。ただ「これで売上はいくら増えたのか」と聞かれると、答えられない。この記事は、飲食チェーンの本部でアプリの数字を預かっている方に向けて書いています。
結論を先に書きます。飲食店のアプリの効果測定は、導入の前と後を比べても分かりません。同じ期間の会員と非会員を並べて、来店の回数と客単価の差を見ます。
先に答え。比べる相手は、去年の自分ではなく、同じ月の非会員
効果を聞かれたときに手元にあるのは、たいていアプリの管理画面に出ている数字です。ダウンロード数、月に一度でも開いた人の数、配ったクーポンが何枚使われたか。どれも管理画面を開けば今すぐ出てきます。
出てくる数字から説明しようとすると、「アプリがどれだけ使われたか」の報告になります。 聞かれているのは、アプリがあることで売上がどう変わったかです。この2つは別の問いで、前者をいくら細かく出しても後者の答えにはなりません。
答えを出す形は決まっています。同じ期間に、会員になった人と、なっていない人を並べる。 片方だけを時間の流れで追うのをやめれば、天候や景気のような外の事情は、両方に等しくかかります。
ダウンロード数とクーポンの利用枚数では、アプリの効果は証明できない
アプリの中の数字が証明にならない理由は2つあります。
- 使っている人は、もともと来ていた人であることが多い。 アプリを入れて開いてくれるのは、その店を気に入っている人です。来店の多い人が会員になりやすいので、会員の来店回数が多いのは当たり前になります。アプリが来店を増やしたのか、来店が多い人がアプリを入れただけなのかは、この数字では見分けられません。
- クーポンの利用枚数には、値引きがなくても来た人の分が混ざる。 使われた枚数は「配った相手が来店した回数」でしかありません。クーポンがなければ来なかった人が何人いたかは、枚数からは出てきません。
どちらも、アプリの中だけを見ているあいだは切り分けられません。 必要なのは、アプリを持っていない人という比べる相手です。
導入の前と後を比べると、外食全体の動きが混ざる
もう一つよくある測り方が、アプリを出す前の年と後の年を比べるやり方です。これは、外食の売上そのものが毎月動いているために成り立ちません。
日本フードサービス協会の外食産業市場動向調査を報じた流通ニュースによると、2026年8月の外食全体の売上は全店ベースで前年同月比で4.9%増、客数は2.6%増、客単価は2.3%増でした。客数も客単価も、店が何もしなくても前年から動いています。自店の客単価が去年より上がっていても、その分がアプリによるものだとは言えません。
では全体の伸びを引けばよいのかというと、それもできません。同じ月の業態別を見ると、ファストフードは5.8%増、パブ・居酒屋は0.6%増と差が開いています。全体の数字は自店の業態の動きではないため、引き算の根拠になりません。天候や近隣の競合の出入りまで含めれば、差はさらに広がります。
前後の比較で動いた分には、アプリの効果と外の事情が合わさって入っています。 分けられないものを分けたことにして報告すると、次に何に投資するかの判断を間違えます。
効果測定で見る3つの数字は、会員と非会員の差
同じ期間で並べるとき、見る数字は3つで足ります。
| 見る数字 | 比べ方 | 分かること |
|---|---|---|
| 1か月あたりの来店回数 | 同じ月の会員と非会員 | 通う頻度が変わったか |
| 1回あたりの客単価 | 同じ月の会員と非会員 | 注文の中身が変わったか |
| 最後の来店からの日数 | 会員になった月ごとに追う | 離れるまでの間隔が伸びたか |
3つとも、アプリの中ではなくレジに残っている数字です。会計のデータを会員と非会員に分けられれば、その日から出せます。
それでも、会員のほうが元から来る人だという偏りは残ります。ここを消したいときは、クーポンを配る相手を最初から分けます。 同じ条件の会員を2つに分け、片方にだけ配って、来店回数の差を見る。手間は増えますが、配ったことの効果だけを取り出せます。全員に配ってしまうと、比べる相手がいなくなります。
測り方の3つの型を比べる
ここまでの3つを、効く前提で並べます。どれが優れているという話ではありません。成り立つ条件が違うだけです。
| 測り方 | 効く前提 | 弱いところ |
|---|---|---|
| 導入の前と後で比べる | 外の環境が動いていない | 外食全体の動きが混ざる |
| アプリの中の数字で見る | 使う人がすでにいる | もともと来る人の分が混ざる |
| 同じ期間の会員と非会員で比べる | 会計と会員が結びついている | 作る前に準備が要る |
いちばん下が、この記事の主題です。そして弱いところの欄が示しているとおり、この測り方だけは、出したあとに選べません。 お客様がどの会員番号で会計したかが残っていなければ、会員の客単価は後から計算できません。レジの記録と会員の情報が別々に貯まっている状態からは、どれだけ時間をかけても差が出てきません。
月額のサービスを使う場合は、集計された画面が見られるかではなく、1件ずつの会計の記録を自分たちで取り出せるかを先に確かめてください。画面に出る範囲しか出せない作りだと、自分の店の問いに合う比べ方ができません。お客様の情報を誰が持つかという論点は飲食店のアプリを自社開発すべきかは、店舗数と課金の仕組みで決まるにも書いています。
同じ「会員と非会員で比べる」でも、誰がそれを決めるかで結果は変わります。
| 誰が決めるか | 決め方 |
|---|---|
| 一般的な受託 | 言われた数字を画面に出す |
| YOLOの進め方 | 何を見て続けるかを先に決め、そこから作る |
要件を受け取って作る形では、その数字で判断できるかを確かめる工程がどこにも入りません。出てきた画面は、頼んだとおりに正しく出来上がり、それでも答えが出ません。
なぜYOLOがこの進め方を実行できるのか
先に測り方を決めると掲げるだけなら、誰でもできます。実行できるかは体制で決まります。
代表の山崎は、別会社で飲食店を複数運営しています。店の数字を毎月見る側にいるので、会議に出す1枚で何が判断できて何が判断できないかが分かります。だから機能の一覧を作る前に、どの数字を見て続けるか・やめるかを決める話から入ります。
株式会社ダンダダン様では、各店舗の収益差を改善する分析基盤の構築を担当しています。あわせて、顧客LTVを最大化する新規モバイルアプリの開発と事業検証も担当しました。アプリと、それを判断するための数字を、同じ範囲の中で作っています。 店舗ごとの収益の差がどこから生まれているかを、経営と現場の両方が同じ画面で見られるようにしました。
体制はPM1名・デザイナー1名・エンジニア3名の5名、期間は半年です。アプリの累計ダウンロード数は43万を超えました。来店1〜3回のライトユーザーがリピーターに変わる導線ができ、店舗ごとの収益差が改善しています。詳しくはダンダダン様の事例にまとめています。
測れる形にしておくことと、使われるものを作ることは、同じ設計の中にあります。 進め方は飲食店向け開発に、出したあとに使われない状態の直し方は飲食店のアプリが使われない原因は、通知ではなく店の中にあるに書いています。
まとめ
- 飲食店のアプリの効果測定では、ダウンロード数とクーポンの利用枚数は証明にならない。使っているのは、もともと来ていた人であることが多い
- 導入の前と後の比較には、外食全体の動きが混ざる。客数も客単価も、店が何もしなくても前年から動いている
- 答えが出るのは、同じ期間の会員と非会員を並べて、来店回数と客単価と、最後の来店からの日数の差を見る形だけ。これができるかは、会計と会員を結びつけたかで決まる
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